第3話「もう一人の自分」

はにはに本編から1年後の9月22日(木)

 

 蓮美祭も終わり、受験勉強が本格化してくるこの時期。

 俺はさして努力する気もなく授業を受けていた。

 そんな昼休み。

 がららっ。

 結先生が教室に入ってきて、俺を見つけるなり声をかけてくる。

 なにやら思いつめた表情だ。

結「久住君、ちょっといいですか?」

直樹「何でしょうか?」

結「職員室まで来て欲しいんですが」

 職員室へ向かう途中の廊下で、俺はいつもの雰囲気が違う結先生に聞いてみる。

直樹「あの、どうかしたんですか?」

結「久住君、何も悪いことしてないですよね?」

結「先生、久住君のこと信じてますからね」

直樹「な、なんですか、いきなり・・・」

結「あの・・・」

 一瞬言いよどむ結先生

結「とりあえず職員室に来てください」

 ・・・・・。

 職員室に入ると、フカセンが俺を待っていた。

深野「来たな、久住」

直樹「フカ・・・・の先生」

 生活指導のフカセンが出てきているということは。

深野「ご両親・・・というか渋垣のご両親だな。電話をかけてもつかまらないんでな」

直樹「プロジェクトが成功したといってましたが、まだ朝早くて、夜遅いですから」

深野「で、話なんだが」

深野「おまえが、夜中に学園の内外を徘徊しているという話があってな」

直樹「はぁ・・・」

深野「校門を乗り越えたとか、ふらふらしているのを見たという人がいる」

深野「授業中に寝てるしな。生活態度に以前から問題があるとしてもだ」

直樹「あの、夜中って何時くらいなんですか?」

深野「2時とか3時の深夜だな」

直樹「いえ、身に覚えがありません。授業中に寝てる俺でも、その時間は家で寝てますって」

直樹「茉理とか、叔父叔母に聞いてもらってもいいですが、そんな時間に家から出たり学園にいたのは・・・」

直樹「夏休み中の天文部の天体観測会だけですし、そのときには顧問の野乃原先生もいました」

深野「うーん、そうか」

深野「被害の報告や証拠があるわけでもないんでな。ま、今日は一応の確認で終わりだ」

深野「でも授業中に寝てることが多いのは何とかしろよ。受験も近いんだからな。以上」

直樹「ういーす」

 フカセンもあまり理不尽に問い詰めてくることはなかった。

 授業中に寝てるのは・・・単純に夢見が悪いせいで夜中に寝れないからだけど。

 それをいうとややこしくなりそうだったのでやめておく。

 職員室を出ると、困ったような顔で結先生が立っている。

結「久住君、どうでしたか?」

直樹「いや、対した事じゃなかったですよ」

直樹「まあ、授業中に寝てるのが多いのは怒られましたが」

結「そうでしたかー」

 結先生がほっとした表情になる。

結「久住君が変なクスリに手を出したとか、バイクで埠頭を暴走してたとかじゃなくて良かったです・・・」

直樹「結先生、俺ってそんな風に見えますか?」

結「いえ、そういう人が多いと聞いただけですけど」

 少し脱力した。

 俺はそのままカフェテリアに向かった。

 カフェテリアに入ると、美琴と保奈美、茉理とちひろちゃんに弘司がいたのでそっちへ向かう。

美琴「あ、釈放されてきたよー」

弘司「どうしたんだ?クスリか?暴走行為か?」

直樹「おまえら世間の情報に流されすぎ」

保奈美「なおくん、そんなことしてないもんね」

直樹「ああ、呼び出されたこと自体濡れ衣みたいなもんだった」

美琴「なーんだ、良かったねー」

弘司「で、なんて言われたんだ?」

直樹「なんでも、俺が学園の内外をうろうろしてる噂があるんだとさ」

茉理「ま、濡れ衣なら、堂々としてればいいんだよ」

美琴「そうそうっ」

茉理「もう昼休み時間もないことだし、お弁当は放課後にしよっか」

直樹「仕方ないな」

 ・・・・・。

 午後の授業は予想通り、ふわふわした雰囲気で締まらなかった。

 俺はそんな空気に誘われるようにして眠くなる。

 ・・・・・。

 あれ?

 これは・・・眩暈?

保奈美「なおくん、起きないと駄目だよ」

 しかし。

 俺は自分の体をまっすぐに保てない。

 まずいな。

 と、思った矢先に、椅子からも滑り落ち、床に倒れて・・・。

 バタッ。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 気がつくと俺は保健室のベッドの上にいた。

保奈美「あ、気がついたみたいです、先生」

 そうか。保奈美は保健委員だっけ。

恭子「で、どうしたの?久住らしくもない」

直樹「いや、最近変な夢を見たり、夜中に徘徊している噂があったりで、僕の繊細な神経はメロメロです」

恭子「なーに、言ってんだか・・・」

恭子「でも、精神的な疲れとか寝不足はあるみたいね。気休めにしかならないけどコレ飲んどく?」

 渡されたのはドリンク剤。

直樹「ありがたく飲んでおきます」

恭子「寝不足って、まさか渋垣と張り切り過ぎってことはないわよね・・・」

直樹「セクハラオヤジのようなこと言わんでください」

恭子「じゃあ・・・本当に夢遊病だったりしてね」

直樹「冗談はやめてくださいよー」

 ・・・・・。

 放課後になって、俺はカフェテリアがたまたま休みだったという茉理に、付き添われるようにして家に帰る。

茉理「直樹、大丈夫?」

直樹「ああ、そんなに支えるように歩かなくっても大丈夫だって」

茉理「直樹が倒れたって聞いたから、授業が終わったら飛んできたんだよ」

直樹「ありがとうな」

直樹「それと、弁当悪かったな」

茉理「ううん、直樹の体のほうが大事だもん」

 ・・・・・。

 家に着くと、心配する茉理を自分の部屋に行かせ、一人ベッドに横になる。

 自分では自覚がないだけに、少し夢遊病が心配になってくる。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 ・・・うとうとしていたかもしれない。

 気がつくと夜になっていた。

 そのあいだ、何度も部屋にきてくれたようで、毛布はしっかりと掛かっていた。

 家事をし終わって、自分の部屋に戻る茉理の足音が聞こえる。

 ・・・それとなく、夢遊病について少し聞いてみるか。

 扉が空いたままの部屋に入る。

直樹「茉理」

茉理「あ、直樹、起きても大丈夫なの?」

直樹「ああ、毛布掛け直してくれてありがとうな」

茉理「直樹が心配だったからね」

直樹「ところで、俺って夜中に起きたりするのか?」

茉理「突然どうしたの?」

茉理「・・・保奈美さんかあたしが起こさなきゃ、地球が滅亡するまで寝てるくせに」

直樹「そうだよなあ・・・」

 そして俺は、フカセンに呼び出された詳しい内容と、恭子先生に言われたことを話した。

茉理「お昼にカフェテリアでも聞いたけど、それって全然記憶にないんでしょ?」

直樹「ああ、神に誓って」

直樹「だから、俺が寝ぼけてうろうろしていたら叩き起こしてくれ」

茉理「そういうことならしゃーないか。おっけ」

 ・・・・・。

 念のため、ドアノブに歯磨き粉を乗せておく。

 もし、ドアノブを回して外へ出たなら、歯磨き粉が落ちて証拠になるはずだ。

 これで、俺が寝ている間に外に出ているかどうか、分かるに違いない。

はにはに本編から1年後の9月23日(祝)

 ・・・・・。

 しかし、翌朝になってもいつもと同じ。

 歯磨き粉もそのまま。

 夜中に起きていた形跡は、全くと言っていいほどない。

 ・・・そういえば今日は祝日だった。

 もう一度寝てみるか。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

保奈美「わっ、これ歯磨き粉?」

直樹「ああ、ごめん」

 保奈美が起こしに来たといってももう昼前だ。

保奈美「ずいぶんうなされてたよ、なおくん」

直樹「なんだか変な夢を見ていたような気がする」

 誰もいない街を独りで歩く夢を、やけにリアルに覚えている。

保奈美「うーん、前世の記憶とか?」

直樹「そういうのは信じてないしなあ」

 そうこうしていると、茉理が入ってきた。

茉理「あ、直樹起きたんだ」

 今日は3人で出掛けることになっている。

 ・・・・・。

 着替えて3人で駅前に遊びに出掛ける。

 と、向こうから歩いてくる委員長とばったり会ってしまった。

直樹「よう、委員長」

文緒「あ、久住君、昨日の夜学園内で大暴れしたって本当?」

直樹「「なんじゃそりゃ」

文緒「温室のガラスが割られてるって、ぷんすか怒ってたわよ」

直樹「はあ?」

文緒「どうもその時間に久住君を見たっていう人がいるらしいわよ」

保奈美「それって本当になおくんなの?」

茉理「夕べは外に出て行く音はしてなかったと思うけど」

文緒「詳しくは、ごめん、わからないんだ」

直樹「ま、いいや。サンキュー、委員長」

文緒「学園の外でその呼び方は・・・」

 後ろで委員長が何かを言っている。

保奈美「なおくん、学園に行ってみようよ」

茉理「温室ならちひろも心配だし」

直樹「そうだな」

 俺たちは学園へ向かった。

 温室に着くと、恭子先生が怒っている。

 ちひろちゃんはがっかりした様子だった。

恭子「あ、久住!」

ちひろ「久住先輩・・・」

直樹「俺じゃないですってば!」

茉理「ちひろ、大丈夫?」

ちひろ「うん、私が直接被害を受けたわけじゃないから」

 ・・・・・。

恭子「ちょっと、保健室まで来てくれる?」

保奈美「あの、私たちもいいですか?」

恭子「ええ」

 恭子先生について、保健室に行く。

 ・・・・・。

 聞くと、夜中のうちに温室のガラスが何枚か割られていたとのこと。

 台風シーズンが近いため、修理が間に合わないうちに天候が悪化すると被害が甚大だとか。

恭子「だから橘もがっかりしてるのよ」

直樹「それは・・・なんといっていいのか・・・」

 恭子先生は俺を疑っているわけじゃなかった。

 ・・・怒ってはいるけど。

 俺と茉理は歯磨き粉作戦の説明をしたりして、一生懸命アリバイを確立する。

 自分の不安も拭い去るように。

恭子「目撃されたって言う話も曖昧だし、それに渋垣がそう言うなら・・・」

恭子「それでも、もう一度確認させて。久住がやったわけじゃないのね?」

直樹「絶対に違います」

恭子「私の目を見て」

直樹「はい」

 じー。

 ・・・・・。

恭子「分かったわ、久住を信じる」

 ・・・・・何か思案顔の恭子先生。

恭子「信じるけど、今度何かあったら言い訳できなくなってくるから・・・」

恭子「まずは、くれぐれも夜遊び禁止ね」

恭子「それと、できれば完全なアリバイがあったほうがいいと思うわ」

直樹「はいはい」

恭子「一応、橘の様子も見ておいてくれる?」

直樹「わかりました」

恭子「ごめんね、いろいろと大変で」

直樹「いえ、信じていただいてうれしかったです。・・・・失礼します」

並んで歩いている茉理が、心配そうに俺を見上げる」

茉理「直樹じゃないよね」

直樹「ああ」

直樹「絶対に、何が何でも俺じゃない」

茉理「あたしも直樹のこと、信じてるからね」

 温室に戻ると、ちひろちゃんが温室の壁際にしゃがんでいる。

 黙々とダンボールで穴をふさぐ応急処置をしているようだ。

直樹「ちひろちゃん」

ちひろ「久住先輩・・・じゃないですよね?あんなの、噂だけですよね?」

直樹「ああ、絶対に俺じゃないよ。神に誓って」

ちひろ「よかった」

 ・・・・・。

直樹「でも、大変そうだし、とりあえず手伝うよ」

保奈美「私も手伝うよ」

茉理「もちろんあたしも」

直樹「台風が来ても大丈夫なように、応急処置とはいえしっかりやらないとな」

ちひろ「ありがとうございます」

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 誰かが俺を陥れようとしているのか、犯人が俺にそっくりなのか。

 まさかとは思うけど、俺が知らないうちに俺自身が、扉の歯磨き粉まで元に戻したなんてことは。

 茉理も外に出た様子はないって言うけど。

 ・・・・・。

 考えれば考えるほど、嫌な方向に思考が進んでしまう。

 こういうときは、無心で作業に打ち込んだほうが良さそうだ。

 廃材置き場からベニヤ板を持ってきて、温室のガラスの穴をふさぐ。

 そして中と外から、しっかりとブロックを置く。

 小さい隙間には両面からガムテープ。

 これで、業者が来るまでは何とかなるかな。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

結「久住君っ」

直樹「結先生、どうしたんですか?」

結「仁科先生に聞いて、いろいろと話を聞いて回ってたんです」

 結先生が集めた情報によると。

 俺かと間違われた犯人風の男は、0時くらいに学園の近辺にいたらしい。

 校門を乗り越えている姿を見たとの噂も。

 その他にも奇声を発していたとか、冷静な感じだったとか、はっきりしない話が多数。

直樹「その時間なら家で寝てたはずです」

直樹「もしかしたら、叔父と叔母が帰ってくる時間なので、一応聞いてみます」

結「大丈夫、私も久住君がそんなことする子じゃないって思いますよ」

直樹「はは、人の情けが身に染みます」

 ・・・・・。

 温室での作業を終えて、俺と保奈美と茉理の3人は校門へ続くスロープを下りる。

 みんなあまり口を開きたくない雰囲気だった。

 俺じゃないとすれば、誰かが俺を陥れるために、俺のフリをして暴れていることになる。

 そこまで恨まれる覚えはないけど・・・。

 俺にそっくりな顔の犯人がいたり、実はやっぱり俺自身が凶悪な夢遊病者だった、という話よりは有り得るだろう。

 そう考えると。

 やっぱりあまり口を開く雰囲気ではなくなってしまう。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 しかし、そんな沈黙を茉理が破ってきた。

茉理「直樹、こうなったら真犯人を捕まえよう!」

直樹「は?」

保奈美「え?」

茉理「直樹じゃないんだったら、濡れ衣は晴らしておかないと!」

直樹「そんなこと言ったって、危険かもしれないし」

保奈美「そうだよ、茉理ちゃん」

茉理「でも、直樹がこんなに疑われたりするのって、見てるだけでつらいよ」

直樹「・・・・・」

 茉理は、今にも泣き出しそうなくらい涙をためている。

直樹「そうだな、証拠写真を撮って、逃げ出すくらいならできるかもな」

茉理「うん、それでもいいから、やってみようよ」

 ・・・・・。

 結局、先生に許可を出してもらうのは難しそうなので、黙ったまま決行することになった。

 持っていくのは、懐中時計にデジカメ、虫除けなど。

 見つかったときに不法侵入者扱いにされないように、制服を着ていくことにする。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 しかし、そう簡単には犯人を見けることはできなかった。

 毎晩、校庭で息を潜めているものの、空振りの連発。

 無為に一週間以上が過ぎ、俺も少し疲れ始めている。

 でも、茉理は絶対に犯人を捕まえると、強く主張していた。

 最近はカフェテリアを早めに切り上げさせてもらっているらしい。

 そんな日の夜。

 この日も夜9時近くに、学園の中に忍び込む。

 茉理が持ってきたデジカメも、出番がないままだ。

 ・・・・・。

 ここ数日で、すっかり馴染んだグラウンドの脇の茂みに陣取る。

 ・・・・・。

 茂みで待つこと2時間。

 今日も何もすることがなく、暇もいいところだ。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 ドラマに出てくるような刑事さんも暇なんだろうか。

 そんなことを考えてると。

 裏山から聞こえてくる虫の音が、ふいに小さくなった。

 学園の周りの犬が、わんわん鳴きはじめる。

保奈美「な、なんだろ」

直樹「しっ」

 遠くで蠢いている影。

 ・・・・・。

 小さいな。

 あれは・・・結先生だな。

茉理「結先生だね」

直樹「なにやってんのかなぁ」

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 やがて静まり返り、しばらくして・・・。

 学園の周りの犬が再び鳴き始めた。

 カフェテリアの番犬の声も聞こえる。

 時計塔のほうから現れたその人物は、温室のほうへ向かう。

 つまり、今、俺たちがいる場所へ。

 ・・・・・。

 息を飲み、そっと様子を窺う3人。

 ・・・・・。

 嫌な唸り声を上げているその人物は、温室に向かって曲がる。

 そして、温室の扉に

 拳をたたきつけた!!

 飛び出す俺。

 フラッシュを焚く茉理。

 その刹那の光に浮かんだ姿は、俺そっくりだった。

 男が逃げる。

 俺も、咄嗟にその後を追って走り出した。

保奈美「なおくん!」

茉理「直樹!」

直樹「二人とも来るな!」

保奈美「・・・・・」

茉理「・・・・・」

 返事はなかったが、二人の足音が追いかけてくる。

 危険かもしれないと思ったが、俺はとりあえずその影を追った。

 いざってときは、絶対に俺が、二人を守る!

 ・・・・。

 俺は、頭の中に鈍い痛みを感じ始めている。

 ただ、その逃げる人影も、俺と同じような頭痛に苦しんでいるようだった。

保奈美「なおくんっ、校舎内に入ると・・・」

直樹「構うもんか!」

 土足のまま校舎に入り、追いかけ続ける。

 よろめきながら階段を上がる人影も、なかなかスピードが落ちない。

 俺も歯を食いしばりながら、階段を踏みしめる。

 この上には屋上しかない。

 追い詰めたか?

 ・・・・・。

 屋上に出るとフェンス際に男が立っていた。

茉理「直樹!」

保奈美「なおくん!」

 茉理と保奈美も入ってくる。

 俺は男に話し掛けた。

直樹「お前は、誰だ?」

 温室に来る前までとは違い、目に狂気の光が宿っていない。

 静かに男に話し掛けると、男は力なくうなだれ、フェンスにもたれかかった。

???「お前こそ誰なんだ。どっちの時代の奴だ」

直樹「何を言ってるんだ?」

 ・・・・・。

???「そうか、こっちの人間か」

???「いいよな、何も恐れるものも絶望もない時代で」

???「俺は・・・こんなところにきて何をしているんだか・・・」

 ばたむ

 屋上の扉から出てきたのは、恭子先生だった。

 なんでこんなところに恭子先生が!?。

 俺がそんなことを考えてると、恭子先生は男と向かい合った。

恭子「落ち着きなさい、祐介君」

直樹「ゆうすけ?」

 「ゆうすけ」といえば、確か美琴が初めて会ったときに間違えて呼んだ名だ。

 こいつが、美琴の言ってた「ゆうすけ」なのか?

 そして恭子先生は?

祐介「美琴は・・・俺がここにいることを知っているのか?」

恭子「いいえ、知らないわ。あなたの望みどおり」

祐介「そうか・・・」

 一瞬ほっとしたような表情を浮かべる祐介。

 時計塔が12時を告げる。

 次の瞬間、祐介はフェンスをよじ登りはじめ、その上をまたいでその身を投げ出そうとした。

恭子「待って!早まらないで!!」

祐介「もう、どうでもいい。疲れた。ゆっくりと眠りたい」

 恭子先生の静止を振り切り、フェンスを乗り越えようとする祐介。

 止めに走る俺と恭子先生。

 しかし、間に合わない。

祐介「夢の終わる時間だ・・・」

 祐介が今まさに飛び降りようとした瞬間。

直樹「!」

茉理「ふう・・・」

 そこで、ただ一人間に合ったのは茉理だった。

 茉理は、ギリギリのところで祐介をフェンスのこちら側に引き落としていた。

 ・・・・・。

直樹「説明は・・・してもらえるんですよね?」

恭子「ええ、しなくちゃ、いけないでしょうね・・・」

恭子「でも、今日はもう帰りなさい。説明はまた明日」

 ・・・・・。

直樹「分かりました」

直樹「それでいいよな、茉理、保奈美」

保奈美「うん」

茉理「わかった」

恭子「それじゃあ、気をつけてね」

 ・・・・・。

 仕方なく帰る俺たち。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 三人とも無言。

 坂には足音だけが静かに響く。

 ・・・・・。

 そういえば、何で屋上から落ちそうになった祐介を助けたのが茉理なんだろう。

 俺は一瞬、第一歩目を踏み出すのが遅れた。

 恭子先生は祐介から少し離れていた。

 茉理は・・・なんで。

 茉理と繋いだ手から、心なしか、微かな震えが伝わってきていた。

 街頭でできた影と、月明かりの影が、重なった。

 

第3話を書き終えて

・・・・・。全体の90%以上が保奈美エンドと一緒ですね。ただ、それを茉理に置き換えただけで・・・。宣言はしてましたが。第2話でも書きましたが、私自身に表現力がないのが原因ですね。はにはに保奈美エンドを、ウインドウでプレイしながら読むとよく分かります。また、アニメ版の真似ではないですが、祐介を追うのは二人になっています。この後の展開から保奈美も一緒にいたほうがいいと思ったからです。ちなみに、祐介が飛び降りようとしたときに言ったセリフは、アニメ版と同じものです。少し盛り上げてみました。

第4話もほとんど保奈美エンドの茉理置き換えになると思いますが、はにはにのイメージを壊さずに、なんとかオリジナリティが出せるようにがんばっていきたいです。

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