第1話「夏祭り」

はにはに本編から1年後の8月21日(日)

 今日は、神社での夏祭り。

 また茉理と一緒にこの日を迎えることができた。

 茉理の病気が治って早5ヶ月。その間俺たちは何度もデートを重ねた。

 今日この日のための浴衣の買い物。

 初デートの時に行けなかった公園で茉理に指輪をはめたりと、いろいろなことがあった。

 

 保奈美が茉理の浴衣の着付けに来てくれて、俺はリビングで終わるのを待っている。

 (もうそろそろ下りてきてもいいと思うんだけど)

 そうぼんやり考えていると、階段を下りてくる音がする。

 ガチャ

茉理「直樹ー、お待たせー」

 そう言って茉理が入ってきた。後ろに保奈美が続く。

茉理「どう?直樹」

 茉理は俺が買ってやった、水色で金魚の柄が入った浴衣を着ていた。

直樹「馬子にも衣装」

茉理「むっかーっ!!」

 ツインテールと振り袖が舞う。

 そっちに気を取られていると

 ゴスッ

 また下をやられた。

直樹「いってー」

保奈美「そういう言い方はないでしょ、なおくん」

直樹「はいはい、似合ってますよ、茉理さん」

茉理「ほんとに?」

 茉理が俺に詰め寄ってくる。

直樹「もちろん」

茉理「やったー!!」

 とたんに元気になる茉理。

 そんな茉理を置いて保奈美に話し掛ける。

直樹「保奈美、ごめんな、一緒に行けなくて」

保奈美「ううん、いいよ」

保奈美「その代わり、茉理ちゃんといい思い出作ってきてね」

直樹「ああ、そうだな」

茉理「ああーっ!何話してるんですか?保奈美さん!!」

保奈美「ふふふ、ひみつでーす」

茉理「いいじゃないですかー」

保奈美「でも、そろそろ行かないと廻れなくなっちゃうよ」

茉理「あ、ほんとだ。行こ、直樹」

直樹「ああ」

 俺たちは三人で家を出た。

茉理「保奈美さん、着付けありがとうございました。それじゃ、行ってきますね」

保奈美「うん、気をつけてね」

 そう言って保奈美は自分の家のほうに歩き出す。

 俺たちは神社に向かった。

 ・・・・・。

 去年とあまり変わりのない夏祭り。

 出店の位置や種類は変わっていても、雰囲気自体は変わっていなかった。

 変わっているとすれば・・・

 俺は隣の茉理を見る。

 去年とは違って、俺が買ってやった浴衣を着ている茉理。

 いつもとは違う茉理の姿に、柄にもなくドキドキしてしまう。

茉理「ん?どうしたの、直樹」

直樹「いや、なんでもない」

茉理「あ、お好み焼き!」

 茉理は早速お好み焼きに目がいっていた。

直樹「確か去年もこのパターンだったような・・・」

茉理「いいの!まずはお好み焼きからね!」

 茉理は颯爽とお好み焼き屋の前に行き、二人分のお好み焼きを買ってきた。

 適当な石段に腰掛けてお好み焼きを食べる。

直樹「去年と比べてどうですか?茉理さん」

茉理「うーん、あまり変わってないですねー」

直樹「確かにそうだな」

茉理「でも、これが出店のいいところかもしれないよ?」

直樹「海の家のカレーのように、こういうところで食べるからいいのかもしれないな」

茉理「そろそろ次に行こうよ」

 俺たちはまた出店に繰り出し、いろいろな店を廻った。

 そうこうしているうちに

 ひゅるるるるるる・・・ドーン!

 花火が上がり始めた。

茉理「あ、花火上がり始めたね」

直樹「ああ、もうそんな時間か」

茉理「ねぇ、さっき保奈美さんに、花火を見るのに絶好なポイントを教えてもらったの」

茉理「行ってみようよ」

直樹「そうだな」

 そう言って茉理の後を歩いていく。

 歩いている方角は、神社の裏手から・・・学園のほうだった。

 けっこう坂を上っているような。

 その間、妙な感覚が胸の中に広がっていくのを感じる。

 懐かしさと、嫌な感じと、恐怖が折り重なったような。

 ・・・・・。

 坂を登り終えて、やっと頂上にたどり着く。

 遠くに蓮美市街が見える。

 ひゅるるるるるる・・・ドドーン!

茉理「うわぁ、きれいだね・・・」

直樹「ここはよく花火が見えるな」

茉理「うん、保奈美さんがとっておきの場所だって言ってた」

 それからしばらく、しゃべらずに花火が上がるのを見つめる。

 花火が終盤の時間に差し掛かったとき、茉理が口を開いた。

茉理「直樹、覚えてる?」

直樹「ん?」

茉理「去年は夏祭りのあと、あたしたちははじめてを迎えたんだよね」

直樹「そうだったな、もう1年も経つんだな」

茉理「うん、直樹だから私もしたかったんだけどね」

直樹「俺もだ」

直樹「痛さを必至で堪える茉理、とってもかわいかったよ」

茉理「そう?なんかうれしいような、恥ずかしいような」

 少し間を置いて茉理は続ける。

茉理「でも、あのあと私が病気になっちゃって」

茉理「また、この夏を迎えれるなんて、思ってもみなかった。あの時は」

直樹「茉理・・・」

茉理「でも、もう何年でも来れるよね?」

直樹「ああ、もちろんだ」

 どちらともなく、唇を合わせる俺たち。

 花火はスターマインでフィナーレを迎えようとしていた。

茉理「あ、そういえばここは・・・」

直樹「どうした?」

茉理「保奈美さんが言ってた。」

茉理「ここは、直樹が記憶を無くした場所だって」

直樹「・・・・・」

直樹「そっか」

茉理「それも知っていた上で、あたしたちにこの場所を教えたのかも」

直樹「そうかもしれないな」

茉理「もうあれから6年なんだね」

直樹「俺が茉理の家族になってから6年か」

茉理「うん」

直樹「茉理には感謝してもしきれないな」

直樹「ありがとうな、茉理」

茉理「直樹・・・」

 そうしてまた俺たちは口づけた。

 ・・・・。

 花火が終わり、蓮美坂を下りて家に向かった。

茉理「今日は楽しかったね」

直樹「ああ。そうだな」

茉理「ね?直樹?」

直樹「ん?」

茉理「手・・・つなご・・・」

 茉理が頬を赤らめながら手を差し出してきた。

直樹「ああ、いいぜ」

 茉理の差し出した手をにぎってやる。

 今年の夏祭りはまた茉理と近づけた。

 茉理の手を握っていると、さらに実感が湧く。

 茉理もずっと上機嫌だった。

 こうして、今年の夏は終わっていった。

 

第1話を書き終えて

 第1話の「夏祭り」どうだったでしょうか?賢明な人なら大体この後の展開がお分かりだと思います。本編の一部を少し変えて流用していますしね。ちなみに茉理の浴衣の柄については、メガミマガジンVol.52のイラストで、茉理が着ていたものと同じです。

さて、まだまだ茉理との楽しい思い出が続きます。次は蓮美祭。去年は途中で倒れてしまった茉理。今年は一体どうなるのか、それでは第2話へどうぞ。

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