To Heart2オリジナルアフターストーリー愛佳編

どたばたコメディー「郁乃と由真が手を組んだ!?」 

 

 愛佳の妹、郁乃が退院して数ヶ月。ついに郁乃が歩けるようになった。だが、これがよもやあんな事態になろうとは・・・。

 

 とある日、俺はジュースを飲むべく、食堂への渡り廊下にある自販機の前に来ていた。

貴明「さて、どれにしようかな。」

 独り言を呟きつつ、まずは硬貨を入れる。

 それなりに迷うも、結局いつもどおりにエスプレッソを買った。

 すると、エスプレッソはそこで売り切れとなった。

(ん?どっかで見たような展開が・・・。)

 缶を取り出そうとした瞬間、背筋に寒気が走った。

貴明「まさか!?」

 後ろを振り向くとそのまさかだった。

 いつぞやと同じように、由真が俺の後ろで怒りに震えていた。

 どうやら由真もエスプレッソを買おうとしていたようだ。

貴明「や、やべ。」

 俺は由真が何かをしだす前に立ち去った。

由真「こら!待て!!河野貴明!!」

 後ろで由真が叫ぶも、ひたすら走って逃げた。

・・・。

−Another View−

 愛佳と郁乃は校内を歩きながら喋っていた。

 しかし、食堂への渡り廊下へ差し掛かった辺りで、大声を聞いた。

由真「こら!待て!!河野貴明!!」

 愛佳はびっくりしつつも、その声がしたほうへ視線を向ける。

愛佳「由真?」

 由真は誰かを追おうとしていたが、呼び止められてその場に踏みとどまった。

由真「あれ?愛佳?」

愛佳「どうしたの?大声なんか出して。」

由真「聞いてよ、河野貴明が・・・。」

 由真は今起こった出来事を愛佳に話す。

 愛佳はあきれた顔で言った。

愛佳「でも、それって別に貴明君が悪いわけじゃ・・・。」

由真「いーや、あいつが悪い。愛佳はあいつの彼女だからわかんないかもしれないけど。」

愛佳「えええぇぇぇ!?」

 愛佳は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 そこで、由真は愛佳の隣にもう一人いることに気付く。

由真「あれ?愛佳、その子は?」

愛佳「え?ああ。この子は私の妹の郁乃。」

郁乃「由真さんですね?姉から話は聞いてます。」

由真「そういえばうちの学校に来てたわよね。会うのは初めてだけど。」

 郁乃が編入して数ヶ月経つが、不思議とこの2人が会うのはこれが初めてだった。

郁乃「時に由真さん。見たところ河野貴明が気に入らないみたいですが。」

 郁乃は愛佳から少し離れて由真に話し掛ける。

愛佳「?」

由真「あったりまえよ。いっつも挑みかかってくるし。」

郁乃「私も姉をとられて(?)大変なんです。今度何かあったときはご一緒しますよ。」

由真「え!?ほんと?じゃあ、お願いしようかな。」

郁乃「打倒、河野貴明。目指しましょう!」

由真「うん!」

愛佳「??」

 こうして郁乃と由真の同盟が結ばれたのであった。

 −Another View End−

 

 翌日の放課後

 俺と愛佳は書庫の整理をするべくいっしょに教室を出た。

 しかし−

郁乃「ここであったが100年目!!」

由真「河野貴明!!」

郁乃「姉を解放して」

由真「成敗されたし!!」

郁乃&由真「いざ、勝負!!」

 なんと、由真と郁乃が廊下で仁王立ちして、こちらを待ち構えていた。

愛佳「え?え?」

貴明「ちょ、なんでそうなる!!」

由真「問答無用!!」

 由真が猛然と走ってくる。

貴明「と、とりあえず逃げるぞ!愛佳!!」

愛佳「た、貴明君!?」

 俺は愛佳の手を引っ張って走り出した。

愛佳「待ってよぅ」

 (とにかくまずは・・・)

愛佳「貴明君、どこ行くの?」

貴明「体育館の倉庫!!」

愛佳「う、うん。」

 愛佳は「体育館の倉庫」と聞いたら、急に恥ずかしがってしまった。

 俺と愛佳は既に幾度となく体を合わせている。

 だからそういう想像も無理はないが・・・。

 そうこうしているうちに体育館にたどり着く。

 扉を開けて辺りを見回す。

 まだ放課後も始まって間もないため、中にはまばらな人数しかいない。

 たしか左奥に体育倉庫があったはず。

 俺はそっちへ向かって走り、愛佳を中に入れたところでドアを閉めた。

貴明「とりあえずこれで良し・・・」

 一息ついてから愛佳のほうを見る。

 ある程度は息が上がっているものの、走った距離が短かったのでそれほど疲れた様子は無い。

貴明「愛佳、大丈夫?」

愛佳「うん、大丈夫。」

貴明「全く、あいつら何を考えてるんだか・・・。」

愛佳「郁乃があんなことをするなんて・・・。」

 愛佳は少し残念そうに視線を落とした。

 と、そこで、どこかで聞いたことがある歌声が聞こえてきた。

???「たまご、たまご、たーまごサンドをたべちゃうぞっと。」

 歌の最後の方とともに、右側のドアが開いた。

花梨「あ、たかちゃん発見!!」

貴明「さ、笹森さん・・・。」

 今日は校外での活動だったのか、早くもミステリ研から出てきた。

花梨「なになに?ついにミステリ研に入ってくれる気になった?」

貴明「そんなんじゃないよ!」

花梨「またまた〜。・・・あれ?小牧さん?」

 花梨が愛佳に気付く。

花梨「2人で何やってんの?まさか、体育倉庫で・・・。」

愛佳「ち、違うよぅ〜。」

 愛佳は両手で握りこぶしを作り、駄々をこねるように手を上下に振って否定した。

貴明「俺たち追われてるんだ。」

花梨「え?もしかして宇宙人に!?」

貴明「何でそうなる!!」

 俺は全力で否定するも、花梨は信じていないらしく、扉を開けようとしていた。

貴明「わ、開けちゃ駄目だ、笹森さん!!」

花梨「うちゅうじ〜ん。」

 しかし、花梨はドアを開けてしまう。

 さらに、タイミングが悪いことにちょうど由真が入ってきた。

由真「河野貴明!!」

貴明「やべ!!」

 俺は放送室へ続く階段の奥にある「第2用具室」の方へ走り出した。

花梨「たかちゃん!?」

貴明「ごめん、笹森さん。中を通らせてもらうよ!!」

 俺は愛佳とともに第2用具室、通称「ミステリ研」の中に入った。

 そして、そのまま奥の窓から外へ飛び出した。

 窓は結構大きいもので、1階にあるから苦労する心配も無い。

 愛佳の手を取って外に出るのを助け、再び走り出した。

・・・。

 校舎内に戻り、すぐの階段を駆け上がる。

 3階まで駆け上がり、たどり着いた先は「生徒会室」だった。

 その生徒会室にちょうど誰かが入ろうとしている。

 まーりゃん先輩だ。

まーりゃん「およ?たかりゃん。何してるの?こんなところで。」

貴明「ま、まーりゃん先輩。俺達追われてるんです。中に入れてもらっても良いですか?」

まーりゃん「いいよ。」

 まーりゃん先輩は特に何を尋ねるでもなく、あっさりと中に入れてくれた。

まーりゃん「さーりゃん、お客様だぞー。」

ささら「え?」

 中には久寿川生徒会長が座っていた。

まーりゃん「追われてるんだって。」

ささら「そ、そうですか。でも、あまり騒がしいことしたら駄目ですよ。」

貴明「済みません。」

まーりゃん「ところでたかりゃん。そっちの娘は噂の彼女かね?」

貴明「う、そうですけど。まさかここまで広まっているとは・・・。」

まーりゃん「元生徒会長の名は伊達じゃないぞー。」

 まーりゃん先輩は誇らしげにVサインをする。

 愛佳はというと、「彼女」と言われて恥ずかしくなって縮こまっていた。

 と、そこでドアをノックする人が現れた。

???「すいませーん、中に入って良いですか?」

貴明「!」

愛佳「この声って・・・。」

貴明「由真だ。」

 どうやら生徒会の情報力(主にまーりゃん先輩)を頼ってきたようだ。

まーりゃん「ん?今ドアの向こうにいる人に追われているのか?」

貴明「そうなんです!」

 そうこうしているうちにも由真は外でノックしつづけていた。

由真「誰もいないんですかー?」

まーりゃん「仕方ないなあ。」

 まーりゃん先輩はそういうと、どこからともなくはしごを出してきて、窓を開けて下に垂らした。

まーりゃん「さあ!行くが良い!たかりゃん!!」

貴明「行くが良いって・・・。」

愛佳「危ないよう・・・。」

まーりゃん「でも、逃げ道はここにしかないよー。」

貴明「よ、よし!!」

 俺は意を決してはしごを降り始めた。

 そして、何とか下の教室の窓を開け放って中に入った。

 次に窓から上に向かって叫んだ。

貴明「愛佳!下で抑えててあげるから!早く!!」

愛佳「う、うん」

 愛佳は恐る恐るという感じで降りてきた。

 しかし、愛佳の運動神経からしてこちら側に移るのはかなり危なそうだったので、窓の高さまで来た愛佳を抱き抱えて中に引きずり込む。

愛佳「わ、わわわ!!」

 何とか倒れるのを踏みとどまる。

 愛佳を立たせるもも、また縮こまっている。

愛佳「貴明君のえっち・・・。」

 どうやら、抱きかかえたときに胸をつかんでいたようだ。

貴明「ご、ごめん。」

 ひとしきり謝ってから、俺達は教室のドアまで来た。

 少し隙間を開けて外を窺う。

 どうやら追っ手はいないようだ。

貴明「大丈夫だ、外に出よう。」

 俺達は外に出てまた走り出した。

 

−Another View−

由真はノックしつづけていたが、しびれを切らして取っ手に手をかけた。

すると、あっさりとドアが開いた。

 由真「え?」

驚きつつも中を見る。

中にはまーりゃん先輩と久寿川先輩がいた。

 由真「ちゃんといるじゃなで・・・」

途中まで言って、まーりゃん先輩が指を差しているのに気が付く。

そこには、窓から垂れ下がるはしごがあった。

 由真「また逃げられた!!」

由真は窓まで駆け寄って下を見る。

 由真「失礼しましたー!!」

そしてドアを開けっ放しに出て行ってしまった。

ささらはその様子を見て唖然としている。

 ささら「な、何なの・・・?」

 まーりゃん「青春だねぇ。」

・・・。

 由真は走りつつ携帯電話を取り出す。

由真「あ、いくのん!ごめん!また逃した!!今2人は2階を逃走中!!」

郁乃「了解です!!」

 由真は電話を切って階段のほうへと走り出した。

−Another View End−

 

 俺達は2階を走り、手当たり次第入れそうな教室を探していた。

 しかし、この辺りは特別教室があるので、そう簡単に空いている教室はなかった。

 仕方なく、渡り廊下を渡って隣の校舎へと移った。

 そして、今度はこの校舎の3階へと上がった。

 まず、一番最初に目が付いた教室のドアに手をかける。

 意外なほどあっさりと開き、俺達はそのまま中に入った。

貴明「はぁ、はぁ・・・。」

 俺は肩で息をしつつも、愛佳のほうを見た。

 愛佳もだいぶ息が切れているようだった。

貴明「それにしてもここは・・・」

 貴明が周りを確認しようと顔を上げたところで、かなりほんわかした声が聞こえてきた。

???「あー、貴明やー。」

貴明「さ、珊瑚ちゃん。」

 目の前には珊瑚ちゃんが万歳をして立っていた。

 その横には−

瑠璃「なんや、貴明。息を切らせて。」

 瑠璃ちゃんも立っていた。

 どうやらここはコンピューター室のようだ。

貴明「今ちょっと追いかけられてて・・・」

珊瑚「貴明も大変なんやなあ。」

瑠璃「追いかけられてるんやって?貴明らしいなあ。」

 瑠璃ちゃんは嬉しそうに俺を見下して笑っていた。

瑠璃「面白そうやから、うちも混ざろうかなー。」

貴明「勘弁してくれ。」

珊瑚「そうやよ。あかんよー、瑠璃ちゃん。貴明に迷惑かけたら。」

瑠璃「う・・・、さんちゃんがそう言うなら・・・」

 瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんになだめられておとなしくなった。

 俺は愛佳のほうを見る。

 だいぶ疲れているらしく、床にぺたんと座り込んでしまっていた。

貴明「愛佳、大丈夫?」

愛佳「あ、あんまり大丈夫じゃないかも・・・。」

 あれだけ走ってきたんだから仕方がない。

貴明「珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、何か飲み物無い?」

瑠璃「一応あるにはあるけど。」

珊瑚「瑠璃ちゃん、冷蔵庫からオレンジジュース持ってきたって。」

瑠璃「何でうちが貴明のために・・・」

 瑠璃ちゃんはぶつくさ言いつつも、隣の準備室に入っていった。

 このコンピューター室は珊瑚ちゃんのために作られたとかで、準備室も珊瑚ちゃんの私物と化している。

 しばらくして、缶ジュースを2本持ってきて俺達に差し出してきた。

貴明「ありがとう、瑠璃ちゃん。」

瑠璃「さんちゃんのお願いやからな。」

 瑠璃ちゃんは照れているのか、視線を合わそうとはしなかった。

珊瑚「床下に配線が張り巡らせてあるから、絶対こぼしたらあかんよ。」

貴明「うん、気をつけるよ、珊瑚ちゃん。」

 俺達はジュースを飲んで一息つく。

 愛佳もだいぶ落ち着いてきていた。

 その間、珊瑚ちゃんたちはパソコンに向かって何かを打ち込んでいた。

 周りにはいろんなぬいぐるみが所狭しと並べられている。

 そのとき、突然着信音が鳴り響いた。

 愛佳の携帯だ。

愛佳「誰からだろう?」

 液晶画面を見ると、郁乃からかかってきていた。

 瞬間、俺達がいるのとは違う方のドアが開け放たれた。

郁乃「ここね!!」

 どうやら電話をかけて着信音で場所を割り出したようだ。

貴明「今度は郁乃か!!」

珊瑚「貴明、その子に追われてるん?」

貴明「そうだよ!!」

 俺は応えながらもう一つのドアに走った。

珊瑚「みっちゃん!!」

 珊瑚がそういうと、ぬいぐるみの山の中から熊のぬいぐるみが飛び出した。

 クマ吉だ。

 クマ吉はそのまま郁乃の足にまとわりついた。

郁乃「わ!わ!わ!」

 そのまま足をとられて、ついには尻モチを付いた。

郁乃「痛ったー。」

珊瑚「貴明、いまのうちや!!」

貴明「ありがとう!珊瑚ちゃん!!」

愛佳「郁乃、ごめんね〜。」

 俺達は教室を出てまた走った。

 今度は一気に1階まで降りる。

 更に別の校舎へ向かうべく、廊下を走る。

 すると、今度は前方にるーこを発見した。

 無視して走ろうと思ったが、るーこが声をかけてきた。

るーこ「るー!!」

 俺達は足を止める。

貴明「なんだよ!るーこ!」

るーこ「うー達は何をやっているんだ?」

貴明「追いかけられているんだよ!」

るーこ「うー達は何か悪いことをしたのか?」

愛佳「別にそういうわけじゃないんだけど。」

るーこ「じゃあ何で追いかけられてるんだ?」

貴明「ああ、もう!!」

 話が長引きそうだったので、俺は有耶無耶にして走り出そうとした。

るーこ「まあ、待て。うー。」

貴明「まだ何かあるのかよ!」

るーこ「こういうときのために3回目のるーを使うか?うーの一人や二人、消すことなどたやすいぞ。」

貴明「そこまでしなくてもいいから!!」

 俺はるーこをその場に置き去りにして走り出した。

るーこ「るー。」

 3つ目の校舎に入り、さらに1階を走る。

 今度はこのみ、環、雄二に出くわした。

このみ「あ、タカくん!!」

貴明「今度はこのみか。」

環「どうしたの?タカ坊。廊下は走っちゃ駄目よ。」

貴明「そ、それはそうだけど。」

雄二「小牧さんもいるってことは・・・、愛の逃避行か?」

愛佳「ううぅ〜、そんなんじゃないんです!!」

貴明「追われていることは確かなんだけど」

このみ「ねえねえ。タカくん。私も混ざって良いかな?」

 どうやらこのみにはこの状況が理解できていないらしく、単なるおっかけっこだと思っているようだ。

環「駄目よ、このみ。廊下を走るのは危険なんだから。」

このみ「はーい。」

雄二「なんなら俺が追われる役代わってやろうか?俺なら小牧さんを・・・」

 そこまで喋ったところで、雄二は環にアイアンクローを食らわされた。

雄二「あだだだだだ・・・割れる!割れる!割れる!!」

環「行きなさい、タカ坊。でも、あまり走っちゃ駄目よ!」

貴明「うん、わかった。気をつけるよ、タマ姉。」

このみ「またね、タカくん。」

雄二「割れる!割れる!割れる!わわわ われわれわれ れれれ れあれあれあ るれあるれあ・・・あべし!!」

 雄二は奇声を発したあと動かなくなった。

 俺は階段を見つけ上へ上がる。

愛佳「貴明君、もう私走れない・・・。」

 階段の途中で愛佳が音を上げる。

 たしかここは書庫がある校舎だったはず。

貴明「もうちょっとだ、愛佳。ここは書庫がある校舎だから、そこに逃げ込もう!」

愛佳「う、うん。」

 何とか勇気付けてまた走り出す。

 そして、何とか書庫のドアにたどり着く。

貴明「愛佳、書庫の鍵は?」

愛佳「大丈夫、ちゃんとあるよ。」

 愛佳は鍵を取り出してドアを開ける。

 中になだれ込み、俺は内側から鍵をかけた。

貴明「これで良しと・・・。」

 鍵をかけれるので、しばらくはこの中にいれば安全そうだ。

 愛佳はというと、ソファーに座り込んでいた。

愛佳「ううう・・・。疲れた〜。」

貴明「さすがに俺も。」

 俺は愛佳の正面のソファーに座った。

 しばらくは息を整える。

 どうやら今のところ追っ手は来ていないようだ。

 10分もしただろうか。

 愛佳は立ち上がった。

愛佳「お茶を淹れるね。疲れたときに効くのを用意するから。」

貴明「ありがとう、愛佳。手伝うよ。」

 俺達はいつものようにお茶の用意をした。

 そして、再びソファーに座る。

貴明「それにしても、郁乃と由真が手を組むとはな。」

 俺はハーブティーを一口飲んでから話を振った。

愛佳「私もまさかあんなに意気投合するとは思わなかったよ〜。」

 愛佳はお茶菓子を食べつつ応える。

貴明「郁乃が歩けるようになったのは喜ばしいことだったけど、こんなことになるとは予想できなかったな。」

愛佳「歩けるようになってまだそんなに経ってないし、体力もあまりないから無理してなきゃいいんだけど。」

 それからは由真のことは一切出ず、郁乃のことばかり喋っていた。

 お茶を飲み終え、自分のコップを洗ってからソファに戻ると、愛佳は寝息を立てていた。

貴明「無理もないか。ずっと走りつづけてたんだもんな。」

 俺は愛佳を起こさないようにして隣に座る。

 しばらく愛佳の寝顔を眺めていたが、結局自分も睡魔には勝てずに寝てしまった。

 

 −Another View−

 郁乃はとある校舎の1階の廊下でへたり込んでいた。

 歩けるようになって間も無く、入院していた期間も長かったために体力がついておらず、ついにはバテてしまった。

郁乃「はあ、お姉ちゃんどこにいるのよ・・・。」

 ちょうどそこに由真が走ってきた。

由真「あ、いくのん!」

 と同時に郁乃がへたり込んでいるのに気が付く。

由真「大丈夫?いくのん?」

郁乃「さすがに疲れましたよ。」

由真「入院してた時間も長かったんだよね。ごめん、無理させちゃって。」

郁乃「いえ、自分で走る時間とか歩いてる時間を調整すればよかったんですけどね。歩けるのが嬉しかったからつい。」

由真「うん、いいことだよ。」

郁乃「あ、そうだ。」

由真「ん?」

郁乃「由真さん、お茶でも飲みません?」

由真「そうしよっか。自販機でも行く?」

郁乃「良い場所があるんですよ。」

 郁乃はポケットから鍵を取り出した。

由真「その鍵は?」

郁乃「書庫の鍵なんです。私も書庫の整頓を手伝うようになりましたから、姉に合鍵作ってもらったんです。」

由真「学校の鍵を複製していいんかな・・・。」

郁乃「細かいことは気になさらずに(笑)。卒業するときにはちゃんと返しますから。」

由真「でも、ま、書庫なら私のコップもあるしね。愛佳がいろいろ揃えてるから自販機で買うより良さそうだし。」

郁乃「じゃあ、行きましょうか。」

 由真と郁乃は書庫のある校舎へ移動し、階段を上った。

 書庫に到着し、郁乃が鍵を開ける。

 中に入ると・・・。

郁乃「あ・・・。」

 ソファに、散々追いかけつづけた二人が寝ていた。

 それも貴明の頭は愛佳の太ももの上にあり、いわゆる膝枕状態にあった。

由真「どうしたの?」

 まだ中のことには気付いていない由真がたずねる。

郁乃「2人とも寝ちゃってるんです、ソファで・・・」

由真「あ、ほんとだ・・・。」

 二人を起こさないように(どちらかと言えば愛佳のほう)小声で喋る2人。

由真「散々追い掛け回した挙句、結果がこれですか。」

郁乃「偶然って凄いですね。」

由真「まあ、なんにせよ。このまま何もしずに帰るのも癪だからね。」

 そう言いつつ、由真は図書室の方へ歩いていった。

 そして、再び書庫に入ってきたとき、手にはサインペンを持っていた。

由真「愛佳はともかく、河野貴明には顔に落書きしておくか。」

郁乃「あ、それいいですね。」

 2人は貴明の顔に動物のひげっぽいものや、眉毛を繋げたりして落書きした。

由真「ま、こんなもんかな。」

郁乃「そうですね。」

由真「ねえ、いくのん。このあとなんか予定ある?」

郁乃「特に予定はないですけど。」

由真「じゃあさ、商店街の方寄ってかない?」

郁乃「いいですねぇ。ご一緒させてください。」

 こうして二人は書庫を後にした。

 −Another View End−

 

貴明「ううーん・・・。」

 なんとなく目が覚めてきた。

 と、同時に自分が愛佳の膝の上で寝ていたことに気が付く。

貴明「う、うわ!!」

 瞬時にして起き上がった。

貴明「ふう・・・。まさか愛佳の上で寝ちゃうなんて・・・。」

 先に起きれて本当に良かったと安心する。

 ふと、外を見ると、だいぶ暗くなっているのに気が付く。

貴明「いま何時だろ・・・。」

 時計を見ると、閉門まであと5分と迫っていた。

貴明「やべ!愛佳を起こさないと。」

 俺は隣で寝ている愛佳の肩を揺さぶった。

貴明「おーい、愛佳。起きないとやばいぞ!!」

愛佳「う、うーん・・・。」

 寝足りないという感じで眠気眼をこすり、愛佳がこっちを見る。

愛佳「あれ?猫がいる・・・。」

貴明「何寝ぼけてんだ。」

愛佳「寝ぼけてなんかいないよぅ・・・。髭を生やした貴明君がいるぅ。」

 愛佳はゆったりとした口調で話す。

貴明「え!?俺の顔?」

 俺はすぐさま鏡を見る。

貴明「ああああああ!!」

 どうやら寝ていたときにいたずらされたようだ。

 恐らくあの2人だろう。

貴明「どうするんだよ、これ!!」

愛佳「私もう少し寝るぅ・・・。」

 現状を理解していない愛佳はまた寝ようとしていた。

 閉門が迫っているのに、なかなか落ちないマジック。そしてなかなか起きない愛佳。

 俺は半ばパニックになりつつも、由真がいつも言っていたセリフを叫んだ。

貴明「これで勝ったと思うなよ!!」

 しかし、こんな日もたまにはいいんじゃないかと感じ始めている俺がいた。

 この日、結局どうなったかって?

 それは皆さんのご想像にお任せします。

−END−

 

 あとがき

「To Heart2オリジナルアフターストーリー愛佳編」はどうだったでしょうか?ふとしたきっかけで思いつきました。To Heart2のファンページも作るんだったら、何かオリジナリティが欲しくて考え始め、真っ先にこのストーリーが思い浮かびあがりました。郁乃と由真なら意気投合できるだろうと考え、ストーリーを頭の中で描いていったら無理なく進めれることがわかり、書いてみることにしました。とりあえず優季を除く全主要キャラクターを登場させてみました。るーこは書くことがなくてほんの少しとなってしまいましたが・・・(汗)。この辺も無理なくいったのではないかと思います。何より、郁乃が立って歩いている件ですが、これはまあ、「どきどきぱにっくライブラリー」でも普通に歩いているんで問題はないかと。足が悪くて入院してたわけじゃないですし。まあ、全体的に無理なく話を運べたのではないかと思います。

このストーリーについて、ぜひご感想をお聞かせください。掲示板、WEB拍手どちらでも結構です。たくさんの感想をお待ちしています。

最後に。この「To Heart2オリジナルアフターストーリー愛佳編」はリリーナヒーローが独自に作り上げたものであり、実際のTo Heart2とは一切関係がありません。また、このストーリーの全て及び一部に関しまして、無断で使用することを固く禁じます。

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